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水戸地方裁判所 昭和50年(ワ)79号 判決

原告 岩井市

右代表者市長 染谷照雄

右訴訟代理人弁護士 佐藤光将

右訴訟代理人弁護士 介川紘輝

被告 斉藤ムツ

右訴訟代理人弁護士 鈴木忠一

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の各土地について、水戸地方法務局岩井出張所昭和四九年七月二九日受付第三、七四三号抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録(一)の土地は荒井英、同(二)の土地は鈴木茂吉、同(三)の土地は山崎人、同(四)の土地は藤井富代、同(五)の土地は荒井小三郎、同(六)の土地は荒井義夫の各所有に属するものであった。

2  原告は、昭和三六年六月五日、右各土地(以下、本件土地という。)をそれぞれその所有者から買い受け、その所有権を取得した。

3  被告は、本件土地について、水戸地方法務局岩井出張所昭和四九年七月二九日受付第三、七四三号をもって抵当権設定登記を経由している。

4  よって、原告は、被告に対し、本件土地の所有有に基づき、右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は認める。

三  抗弁

1  原告市長冨山光男は、昭和四八年六月七日頃荒井義夫との間で、本件土地と同人所有の八筆の土地とを交換する旨の契約を締結した(以下、本件交換契約という。)。

2  本件(一)、(二)の各土地については、水戸地方法務局岩井出張所昭和四八年六月一五日受付第四、〇九六号をもって原告から藤井和平に対し同月七日付交換を原因とする所有権移転登記が経由され、本件(三)ないし(六)の各土地については、同法務局同出張所同月一五日受付第四、〇九七号をもって原告から邑田二郎に対し同月七日付交換を原因とする所有権移転登記が経由され、さらに、本件(一)、(二)の各土地については同法務局同出張所昭和四八年六月二〇日受付第四、一五二号をもって、本件(三)ないし(六)の各土地については同法務局同出張所同日受付第四、一五三号をもって、それぞれ株式会社清興建設(以下、清興建設という。)に対し同月一九日付売買を原因とする所有権移転登記が経由されており、清興建設は、有効に所有権を取得したものである。

そして、被告は、本件土地について、同法務局同出張所昭和四九年七月二九日受付第三、七四三号をもって、同月二七日金銭消費貸借の同日設定契約を原因とする債権額金四〇七七万五〇〇〇円の抵当権設定登記を経由している。

3  仮に原告が主張するように、原告市長冨山光男が市議会の議決を経ないで本件交換契約を締結したとしても、右法律行為を当然無効と解すべきではなく、その法律関係を前提として、その後に取引に関与する被告のような善意の第三者に対しては、議会の議決の欠缺をもって対抗できないと解すべきである。

四  抗弁に対する認否および原告の反論

1  抗弁1の事実は認める。

同2の事実のうち本件土地について被告主張の各所有権移転登記および抵当権設定登記が経由されていることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  本件交換契約の締結については、原告議会の議決を経ていないから、次の理由により無効である。

普通地方公共団体がその普通財産につき交換契約を締結するには、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項により条例または議会の議決が必要とされ、原告市には同法九六条一項六号に関する条例は制定されていないので、かかる契約については常に必ず議会の議決を経なければならないところ、原告市長冨山光男は議会にはかることなくほしいままに本件交換契約を締結したものであるから、本件交換契約は法律上当然無効である。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断する。

被告の抗弁は、本件交換契約の成立を前提とするものであるところ、原告市長冨山光男が昭和四八年六月七日頃荒井義夫との間で、本件交換契約を締結したことは、当事者間に争いがないけれども、弁論の全趣旨によると、本件各土地はいずれも地方自治法二三八条三項の普通財産と認められるので、これが交換契約の締結に当たっては、同法二三七条二項の定めるところにより、条例又は議会の議決を要するところ、本件全証拠を検討してもこれを認めるに足る資料はなく、かえって、《証拠省略》によれば、原告市には地方自治法二三七条二項にいう条例は存在しないので、原告議会の議決を経なければならないところ、これを経ていないことが窺われる。従って本件交換契約は右法案に違反する違法な契約といわざるを得ない。

しかして、右のような違法な契約の効力について地方自治法上格別の規定は存しないけれども、右法条が普通地方公共団体の財政の健全な運営を図る趣旨によるものであって、私法人の理事ことに株式会社の代表取締役が初めから法人の業務全般について包括的に代表権を有している場合とは異なり、普通地方公共団体の長の代表権限の範囲は法律に定められていることを合せ考えると、これに違反した本件交換契約は無効であると解するのが相当である。

被告は、善意の第三者には右無効を主張し得ないと主張するけれども、その趣旨は必ずしも明らかでないが、取引の安全を主張するものであれば、前叙の地方自治法二三七条二項の法意に照らしてたやすく採用できず、他に特段の事実について主張、立証のない本件においては、被告の右主張は採用できない。

従って被告の抗弁はその前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、被告は、原告に対し、本件土地について前記抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべき義務があるというべきである。

三  よって、原告の本訴請求は、理由があるから正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎政男 裁判官 菅原敏彦 小野田禮宏)

〈以下省略〉

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